開かれたフィールド

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勢いよく開かれた扉から黒い影が飛び出る。 「兄ちゃん!」 背後から聞こえた張りあげた声に統吾は即座に振り向いた。 そこにいたのは、弓を構えた瞑だった。 しかし、統吾が顔を向けた時はちょうど矢を放ったところであった。 光を纏った矢がまっすぐに飛んでいく。 統吾と伊佐田も同時に矢が飛ぶほうへと目を向ける。 その先には、流花がいた。 二人が声をあげる間もなく流花の胸元を光の矢が貫かれる。 その途端、光の矢に剥がされるように彼女に憑いていた黒い靄が出ていった。 あれこそが伊佐田が流花に纏わりついていた陰気だ。 射抜かれた流花は目を閉じ、足元から崩れ落ちる。 だが、倒れこむ直前に駆け寄っていた悟が滑り込み、流花を抱き支えた。 「流花……おい、流花!」 悟は目を閉じたまま動かない流花を揺する。 だが眠りに落ちたようで寝息をたてるだけで流花は目を覚まさなかった。 それでもその表情が柔らかく、安らかだったので悟はホッとしたように息をついた。 その後ろでは瞑が「ヘヘッ」と得意げに笑っていた。 「ナイスキャッチ」 グッと親指を立てる瞑に向け、悟は半目になりながらぼやく。 「ったく……人をこき使いやがって」 「しょうがないじゃん。鳴弦打てるの俺しかいないんだし」 「はいはい。頼りになりますな」 瞑に言い返され、悟は「やれやれ」と頭を掻く。 そんな二人のやり取りを見ながら、統吾は目を細めて笑った。 「もう、待ちくたびれたよ。俺、超頑張ったんだからね」 「悪いな。でも、いいとこだろ?」 「まあね、時間ジャストだったのは見事だと思う」 統吾の言葉に悟はフッと短く笑う。 そんな彼らのやり取りを伊佐田は呆然と眺めていた。 「なんなんだこいつら……急に現れて……それに、なんだその弓矢は」 伊佐田は瞑の持つ弓を見ながら、恐れおののくように一歩退く。 伊佐田からの怯える視線を感じた瞑はあっけらかんとした様子で「これ?」と指差す。 「これは……あんたの嫌いなもの」 その呑気な口調とは裏腹に瞑の眼差しは普段より鋭い。 そこから彼の怒りを感じ取れた伊佐田は強張った表情でごくりと唾を呑んだ。 けれども、瞑は何もためらわなかった。 「あんまこういう柄じゃないんだけどね……」 そう言いながら、ゆっくりと弓を構える。 「もう、あんたの好きにはさせないよ」 光の鏃を向ける瞑に伊佐田はキッと睨みつける。 だが、そんな警戒する彼女の前でも瞑は余裕そうにニヤリと笑った。
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