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◇
「さて、じゃあ今日はとりあえず解散にしとく?」
榊原をヤマサンが送って行ったのを見届けてからカケルさんがパソコンを閉じた。
そうだ…彩希さんの今日泊まる所を決めないと。
無難に私の所で良いかなと声をかけた。
「彩希さん、良かったら家にくる?」
彩希さんがそれに嬉しそうに笑ってくれて少し安堵。
ソウタも…特に反応無くゲームをしているから、きっと異議なしなんだろう。
「はい!俺も行く!」
その隣からミヤビが意気揚々と手を上げた。
「はあ?!何でお前が行くんだよ!」
ほら、カイト…またさ。喜ぶから、ムキになると。
案の定、ミヤビは目尻に皺を作って笑う。
「そうだ、彩希ちゃん!うちね、黒猫いるんだよ?来る?」
今度はソウタがゲーム機から顔を上げた。
「…いいんですか?」
「うん。もちろん!」
ミヤビと彩希さんのやり取りを、ソウタは黙ったまま見守っている。カケルさんとカイトも困惑の色を見せている。
不意にミヤビと目が合ってお日様の様な笑顔を向けられた。
それはあまりにも、綺麗な笑顔で、どこか不安に駆られはしたけれど、その 笑顔の裏にミヤビが持っていた『想い』までこの時は気が付いてあげられなかった。
…きっと、ミヤビなりに彩希さんの気持ちを軽くしてあげたいと考えたのかもしれない。
妹さんについて、募る話もあるだろう。
ここは、ミヤビに彩希さんを委ねようと思ってしまった。
笑顔は時として自分の感情を隠す仮面になる。…ソウタがそうであった様に。そしてきっとこの時のミヤビも。
みんな何かしら抱えていてそれでも表では笑っている。
けれど、微笑みを被っていられるのは、まだ自分を見失っていないって証なのかもしれない。
彩希さんとミヤビが事務所を出て行くのを見送ってから一人、階段を降りた。
丁度降りきった所で、スマホが着信を知らせる。
ディスプレイには“アシナガオジサン”の文字
ほら…ね?
この人に支配されてる私は笑顔どころか何の表情も感情も無くなるから。
何も求めない。
どうなっても構わない。
「はい。」
着信に出るとそのままふらふらと真っすぐに続く暗闇の中へと歩いて行く。
そんな私の後ろ姿をジッと物陰から見ている人がいるなんてこれっぽっちも気が付かずに…。
湘南探偵物語・完
ーBut to be continued…soonー
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