……雪。

2/2
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
……その日。 朝から分厚い雲に覆われていた空からは、 夕方になると白いものが舞い落ち始めた。 「……雪、だね」 「うん」 呼び出された場所に行くと、 彼女は随分前から待っていたのか、 マフラーから出る頬は真っ赤になっていた。 「あのね」 「うん」 白い吐息。 マフラーに半ば隠され、よくわからない表情。 ……“好き” 吐き出された白い息はそのまま、 雪とともに溶けて消える。 笑っている彼女。 でもきっと、 マフラーで隠された口元は泣き出しそうに歪んでいる。 たまらなくなって抱きしめると、 まばたきした彼女の目尻から水滴が流れた。 「……ごめん」 ふるふると彼女が小さくあたまを振る。 ただ、なにもできなくてずっと彼女を抱きしめてた。 ……明日から僕は。 彼女と別の街で暮らさなければいけないから。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!