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……その日。
朝から分厚い雲に覆われていた空からは、
夕方になると白いものが舞い落ち始めた。
「……雪、だね」
「うん」
呼び出された場所に行くと、
彼女は随分前から待っていたのか、
マフラーから出る頬は真っ赤になっていた。
「あのね」
「うん」
白い吐息。
マフラーに半ば隠され、よくわからない表情。
……“好き”
吐き出された白い息はそのまま、
雪とともに溶けて消える。
笑っている彼女。
でもきっと、
マフラーで隠された口元は泣き出しそうに歪んでいる。
たまらなくなって抱きしめると、
まばたきした彼女の目尻から水滴が流れた。
「……ごめん」
ふるふると彼女が小さくあたまを振る。
ただ、なにもできなくてずっと彼女を抱きしめてた。
……明日から僕は。
彼女と別の街で暮らさなければいけないから。
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