シニスターの槍

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 その人のことを改めて訊かれたとしても、僕はきっと、ほぼ何も答えられない。  名前はジャック。でも、おそらくこれは偽名だ。  彼について他に僕が知っていることと言えば、小さな劇団の役者であること、そのかたわらで作家を目指しているということだけだった。 「来たね、ヘラルド」  開口一番の呼びかけは決まってこれだ。  書きかけの原稿から視線を移して見つめてくるその瞳──果てなき好奇心と可能性に燃える彼の瞳が、今も忘れられない。  ジャックと僕が出会ったのは新年も明けたばかりの厳寒のロンドンだった。
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