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「サリュー!」
私が家に来てから、お嬢様はどんどん成長された。どんどん、女性としてお美しくなられた。学校でも、そろそろご結婚され、お子様を持つご学友が増えるころだろう。お嬢様は、多くの男子学生から憧れの的で在るそうだ。私は、それが誇らしく、うれしかった。
長年、しあわせだった。私は最初試験的にこの家にお仕えすることになっただけだけれど、とても。
「……」
時折、文字化けしたメールさえ来なければ。
あの日以降、数年後の私からメールが一年毎、定期的に来た。端末を変えても、アカウントを変えても、受信された。おかしなことに、調べても記録は無いのだ。変なプログラムの存在も無く、ただただ不気味だった。
そして何より不気味だったのは、同じ日付に来ることだ。同じ月同じ日同じ時間に。内容も同じだろう。同じような文字化けをしているから。
「……」
悪戯にしては、随分手が込んでいた。私は『ドール』のくせに寒気を感じていた。
「サリュ、どうしたの?」
お嬢様がベッドから上体を起こして気遣わしげに私へ尋ねた。最近になってこのメールをお嬢様はお知りになった。私が旦那様に相談したのを聞いたようだ。私はお嬢様の不安を取り除くため微笑んで見せた。
「大丈夫ですよ……何でも在りませんから」
「……本当に?」
「ええ」
私が頷くとお嬢様は「そう」と引いてくださった。『ドール』の私は嘘が上手くない。正直、お嬢様が引いてくださったのは有り難かった。あのお転婆だったお嬢様も立派な大人だ。私の、そんなところも理解されているのかもしれない。
お嬢様が再度床に就くと私はお嬢様の頭を撫でる。就寝前の、幼少のときより習慣だった。電気を消し「おやすみなさいませ」「おやすみ」挨拶を交わすと部屋を出た。
お嬢様は日に日に麗しいレディに成られて行く。旦那様は威厳と余裕の在る好々爺となり、奥様は上品なマダムとなられた。変わらないのは『ドール』の私と。
「……」
文字化けしたメールだけ。
同じ日、同じ時間に来る。年代も、同じもの。だから、年々近付いていた。
メールの日付に。
何がしたいのか。何が言いたいのか。何を伝えたいのか。
文字化けのメールは私に届いても、内容まで教えてくれなかった。
私はわからないまま、無視した。
後悔した。もっと解析に努めるべきだった。
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