かくれんぼ

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 1  ある時わたしが良司と湯船の中で対峙していると、急に香苗が入ってきた。  香苗はその状況に少し驚いたらしかった。それはそうだ。香苗はきっとわたしだけが入っていると思ったのだろう。でも香苗は何を思ったのか、決して出ようとはせず、むしろ二人でさえ狭い湯船にその豊満な身体を詰め込んできた。 「こうして二人で風呂に入っているということは」香苗はわたしの後ろに回り込み、膝の上に持ち上げて言った。「とうとう二人も付き合うことになったという訳か? なあ良司。そういうことか? ん?」 「ああ、香苗。そいつァ違う」良司が腕を振り、興奮したように言った。「こいつァ全くボイラーの調子が悪い所為だ。一回焚きつけるとそうそう点かなくなる。だから俺はありすと入った。水風呂に入るのは誰だって嫌だからな。それにお前と直之だって一緒に入ってる。それと同じことだ」  それにはわたしも驚いてしまった。「嘘」と頓狂な声を出した。そんなのってありえない。だって良司がいきなり風呂に闖入し、告白をしながら、キスをしながら、あまつさえ胸を触ってきたのが先程のこと。  わたしはそれに身を任せた。自分ではそれを返事にしたつもりだったけれど、やっぱり話がおかしい。弄ばれたとわたしは思った。絶対に許せないと思った。良司がにやにやと笑った。やっぱり良司は馬鹿だとわたしは思った。  2  香苗は詩を書いている。それもみんな、悲しい詩。香苗はそれをよく直之に読み聞かせている。因みに直之というのは、香苗のカレシ。わたしと香苗と直之と良司の四人は、生まれた時からずっと一緒だった。捨てられた子供の集う養護施設。それが以前までの、わたし達の共有の住所だった。  そんなわたし達もやがて大人になり、施設を出ることになった。こうして四人で借りたひとつのアパート。築三十年の木造アパート。でも間取りは4K、最近のボイラーの調子にさえ目を瞑れば、中々にして快適と言えなくもないおうち。  わたしはその畳の一室で大の字になり、一人うんうんと唸っていた。もちろんわたしの頭の中は、昨日の一件にしかない。
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