275人が本棚に入れています
本棚に追加
/157ページ
ヴィーゼルはケーキを狙って、さらに激しくぴょんぴょん跳ねる。と、ヴィーゼルの足がテーブルの上に置きっぱなしになっていたパソコンのマウスを蹴った。
『好きだからです!』
急にパソコンから音声が流れた。ヴィーゼルが蹴ったせいで、何かが起動したようだ。
『何よりも誰よりも好きだからです!』
聞き覚えのありすぎる音声に、カオルはピシリと固まる。
「こ、これは……」
顔をギギギとゆっくり動かし、カオルはパソコンを見た。
その隙をついて、ヴィーゼルは大ジャンプでケーキを奪った。そして、床の上に着地したヴィーゼルは、そのままケーキにかぶりつき始める。
それをカオルは止めようとしない。
もはやケーキどころではなかった。
「どういうことだヴィーゼル。この音声は何だ」
「ほれふぁほうほほほふほんふぃはひは」
「飲み込んでから話せ」
ヴィーゼルは口の中のケーキを飲み込み、生クリーム塗れの口で話し始めた。
「それは今日のを録音しました。使えるかなと思いまして」
「何にだ」
「そうですね。あれなんていかがでしょうか。声を録音してアラームにする目覚まし時計。それにこの音声を吹き込めば、王子が高値を付けてくれそうじゃないですか?」
「ふざけるな! 売らせてなるものか!」
カオルはパソコンの前に座り、音声の削除を試みる。
「無駄ですよ」
ヴィーゼルはどこからか五本のUSBを取り出し、指先でパラリと器用に広げて、カオルに見せつけた。
「すでにコピー済みです」
「くっ、くそおおおおおお!」
カオルの嘆きが夜の闇の中にこだました。
これからも魔法少女カオルの受難は続くのである。
end
最初のコメントを投稿しよう!