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「世界は線と線とが結び付き、絡み合い、互いに干渉し合ってできている。見えるものは分子結合という線で。人と人との関係性なんてものも見えないけれども線なんだ」
分かる気がする。
「君のその“理解”も、僕の口と君の鼓膜の間に音という線が引かれ、神経の間を電気信号という線が引かれて導かれたものなんだ」
ああ。その定義は強引で傲慢だけれど、うん……何となく分かるよ。
「それは何よりだ。では、世界の成り立ちについて分かったところで本題に移ろう。ここに1本のナイフがある。君の目にこのナイフはどう映る?」
刃渡りは15センチほど。ついさっき研がれたばかりであるかのように銀色の鈍い輝きを放っている。何かの模様の彫られた木製の持ち手は年代物なのかかなり古びているけれども、しっかりと刃を保定している。果物ナイフを少しだけ鋭利に、少しだけ豪奢にしたようなナイフだ。
「うん。一般的という線は越えることのない普通のナイフだ。でもね、違うんだよ。見た目は普通のナイフでも、このナイフは特別だ」
特別?
「そう、特別なんだ。このナイフは“この世のありとあらゆる線を1度だけ切ることができる"んだ」
線、とは……?
「線は線さ。さっき言っていた万物と万物を結び形成させる線」
……つまり、表象的な部分だけをトリミングして有り体に言えば、このナイフは“1度だけ何でも切ることができる”。そういうことかい?
「君は理解が早いね。僕がこのナイフを届けた人はたいていが僕を無視するか気味悪がるか……とにかく理解はしてくれなかったよ」
それはそうだと思うよ。多分、俺のように特殊な人物でなければ、こんな話を聞こうとも思わない。
「特殊。そうだね、このナイフは特殊な人を選ぶ。僕達運び屋はナイフの選んだ人物の元へナイフを届ける。こう言ったら君は信じるかい。かの有名なナポレオンやヒトラー、その他大勢の有名人は皆、このナイフの力を使って歴史にその名を刻んだのさ」
今のところ半信半疑だな。でも、興味はある。
「正直だね。どうしても聞いてくれない人にはこのナイフの力を使って“猜疑心”なんてものを切ったりもするんだけどね」
それは勘弁願いたい。疑う心や不信は俺の大事な友達だから。
「じゃあ、君のその友人のために僕が具体例を見せてあげよう」
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