第一章 未必の故意

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   とっくの昔に梅雨は上がったはずなのに、強い雨が降り続いていた。  アスファルトに叩きつけられた雨粒が跳ね上がり、視界が白い霧のように霞む。 「あーあ、僕も車欲しいな~」  朱色の傘をさした大学生の志免只秋(しめん ただあき)は、袴田探偵事務所へと急いでいた。  住宅街の小さな道を曲がったとき、目の前に現れた人影に気づく。  雨が激しくてよく見えないが、全身真っ黒な服を着た男。  バイクを押している。  かなり重そうなバイクなのにその足取りは軽やかで、志免は小走りにならないと追いつけなかった。  だが、走ったせいで、傘が役目を果たさず、顔を濡らしながらも、志免はなんとかその人物に追いつこうとした。  日本人離れしたその背格好に、なんだか見覚えがあったからだ。  雨を弾く黒い皮の上下。ちらと見えた鋭角的なその顎に確信する。 「忠興(ただおき)さん!」
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