第一章 未必の故意

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   その、山に近い屋敷の広い庭には、小さなゴルフコースまであった。 「素晴らしいです、若」  ゴルフクラブを持った若い男に、年配の人相の悪い男たちが手を叩く。  長身で無駄なほど爽やかな笑顔のその若は、飛んだ球の落ちた先を目を細め、見つめている。  そのとき、思わぬ方向から拍手の音が聞こえて、男は振り返った。萌黄色のスーツを着た若い女が立っていた。  目の悪い男は、その女の顔は見えなかったが、短めのスカートから伸びた脚線美に、すぐにそれが誰だか思い当たる。 「加奈っ!」  男はクラブを投げ出し、池のほとりに立っている女のもとに駆け寄った。 「隆(りゅう)ちゃん、元気~?」  やわらかなウェーブのついた長い髪を揺らして微笑む加奈に、元気だともっ、と花巻隆一朗は抱きつきかねない勢いで答える。 「てめえの眼には、俺は入ってねえのか」  横に居た内藤がひとりぼやく。
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