第一章 未必の故意

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「隆ちゃん、あのね、お願いがあるんだけど」  加奈は子供の頃と変わらぬ無垢な笑顔で、手を合わせる。 「なんだい? 加奈の頼みなら、なんでも」  そう加奈に向かって手を差し出したとき、ぶはっと声をあげて、志免が後ろの茂みから顔を出した。 「すみません、迷っちゃって」  早ええよ、出てくんのがっ、と内藤が小声で叫び、足で蹴る。  不穏な気配を感じたのか、離れて立っていたさっきの男たちが、さっと胸に手をやった。  なんだお前は、と隆一朗が志免に向かって言おうとしたとき、遅れて茂みから若い女が姿を現した。 「壱子っ!」  悲鳴に近い声を上げた隆一朗の前に、壱子は仁王立ちになる。  彼女の姿を見た男たちが手を下げた。
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