586人が本棚に入れています
本棚に追加
/295ページ
「隆ちゃん、あのね、お願いがあるんだけど」
加奈は子供の頃と変わらぬ無垢な笑顔で、手を合わせる。
「なんだい? 加奈の頼みなら、なんでも」
そう加奈に向かって手を差し出したとき、ぶはっと声をあげて、志免が後ろの茂みから顔を出した。
「すみません、迷っちゃって」
早ええよ、出てくんのがっ、と内藤が小声で叫び、足で蹴る。
不穏な気配を感じたのか、離れて立っていたさっきの男たちが、さっと胸に手をやった。
なんだお前は、と隆一朗が志免に向かって言おうとしたとき、遅れて茂みから若い女が姿を現した。
「壱子っ!」
悲鳴に近い声を上げた隆一朗の前に、壱子は仁王立ちになる。
彼女の姿を見た男たちが手を下げた。
最初のコメントを投稿しよう!