第一章 未必の故意

40/159
586人が本棚に入れています
本棚に追加
/295ページ
  「ふわーっ。  びっくりしました。僕、誘拐って初めてですっ」  借りたボンゴのドアを閉めながら志免が言うと、運転席の内藤が、人聞きの悪いことを言うな、とエンジンをかけながら正す。 「どうしても聞きたいことがあるから、わざわざ迎えに来てやっただけだ」 「誰が信じるんです? それ」  隆一朗は最後部の座席に転がされていた。 「そう証言していただくと言ってるんだ。  まったく、なんだって忠興のために俺が此処までしてやらなきゃならないんだ」  忠興という名前に、隆一朗の肩がぴくりと震えた。  それを見た加奈が、座席に白い手を掛け、彼の居る後部座席を覗き込む。 「ねえ、隆ちゃん。私に何か言わなきゃいけないことない?」  笑顔の加奈に、内藤は前を向いたまま笑う。 「今のうちに言っとけよ。笑ってる加奈が一番怖いぞ」
/295ページ

最初のコメントを投稿しよう!