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ーーこの課だけは、嫌だった。
僕の勤める市役所は、平日の早い時間だというのに問い合わせや相談、申請をしにやって来た人々でごった返している。
半年前に建て替えられたばかりの比較的大きな市役所。
ピカピカの真新しい待ち合い椅子は、ひっきりなしに入れ替わる人間を今日も健気に支えている。
僕は、前の配属先だった『こども課』をうしろ髪を引かれる思いで通りすぎる。
こども課は良かった。
妊娠出産に関する手続きや育児についての相談。
トラブルやクレームも少ない。
赤ちゃんを抱え泣きながら飛び込んでいくる人なんかも時々いたけれど、未来を見据えるこの課にはどこか希望があふれていた。
ずんずんと奥へと進んでいく。
生活保護申請を行う『生活福祉課』は、役所の中でも奥まった所にある。申請しに来た人が周りの目を気にするからだ。
生活福祉課の前も通りすぎる。
辿り着いた最奥の一角に、ひっそりといった感じで小さなプレートが下げられていた。
『老者委託課』
通称、うばすて課。
ここが僕の配属先だ。
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