天地無用

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「もう……誰もいないか」 暖房の切れた真っ暗なオフィスに明かりを灯すと、誰一人いない光景に自然と笑いが零れた。 「みんな、頑張ってたもんな」 椅子に鞄を置いてマフラーを外しながら、ここ数ヶ月の慌ただしさに思いを馳せる。 大手食品会社がスポンサーにつくイベントのコンペティションに自分たちの部署が参加することになってからというもの、普段から何かと熱い社員たちは目の色を変えて決戦に備えてきた。 名を聞けば誰しも知っているような会社相手には知名度も予算も圧倒的に劣る中、彼らの情熱をもって最高のプレゼンが行われたのが今日のこと。 残念ながら彼らのような才能もセンスも無い俺は別件の打ち合わせでプレゼンには参加していないのだけれど、納得のいくプレゼンが出来たことは主任からの連絡で知っている。 結果は後日だというが、そんなものを待っていられない彼らは定時のチャイムが鳴るなり金曜日の街に繰り出して行ったらしい。
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