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あまりの良い笑顔に、ほわほわとつられて笑いそうになったが…
(いや、だから誰…?)
見上げてくるその人の顔はやはり俺の知らないものだ。会ったこともない。この辺で見かけたことすらない。
完全にハジメマシテの人。
人違いをされているのは間違いなかった。
呆然としている俺には気づいていないようで、彼は感極まったように鼻をぐずらせながら俺にしがみついている。今にも泣き出しそうだ。嗚咽を堪えているのか、次の言葉もつげないようだった。
(ど、どうしよう)
彼の様子を見る限り、事態は深刻そうである。
とたんに早く誤解を解かないとという気がして、俺はようやく口を開くことができた。
「……あ、あの、どちら様ですか…?」
「え?」
その時のその人の顔といったら。
まさに驚いた顔の手本のような顔をして、俺のことを凝視した。
今度は彼が固まる番だった。
驚きのあまり、抑えていた涙も引っ込んだらしい。
そんな風にされると、俺も対応に困ってしまうのだけど…。
「…え?太郎、だよね…?」
俺からわずかに距離を取ってその人は呆然と呟いた。
「あなたは太郎ですか?」と聞かれたら、「はい、私は太郎です」としか答えようがない。だって俺は確かに太郎なのだ。 だからなんとか頷いてみせる。
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