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「ナギ君、ナギ君」
洋信のうろたえようがおかしくて、笑っているのに涙が止まらない。
汐浬が後ろから洋信の背中をバシっと叩いた。
「あとは任せた。ナギをよろしく!」
そう言って、白いコートをひらひらさせて、リビングを出ていく。
洋信はさらに慌て、「おわっ」とか「ぬおっ」とか、意味不明に叫んでいた。
壊れた玄関の、軋んだ音をさせて、汐浬が消えた後、凪斗は大人しく洋信に向かい合う。
サンルームから、朝日を反射する波の、キラキラとした光の移ろいが、洋信のボサボサ頭を縁取っていた。
「泣かないでくれよナギ君。ぼくが不安にさせてしまったんだね。ごめんね」
「洋信さんのせいじゃないっちゃ」
「でも……」
黒縁メガネの奥の困った顔。
冷や汗をかきそうにうろたえて、凪斗をどう扱っていいかわからない腕が、肩を抱こうかどうしようかと迷っている。
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