私は能力者

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 おっと話が随分とそれてしまった。  社内で一番の美人だと噂されていた加賀美 涼子。  その彼女がなぜか、私たちの合コンの相手として現れたのだ。  本当は小川からの打診で総務課や受付業務の女性たちとの合コンだったのだが、たまたま受付業務の女性と彼女が友達だったらしい。「合コンというイベントに参加したことがないから、一度参加してみたかった」と彼女は言った。  とても気さくで気取った様子が微塵もない。しかも聞き上手。どんな話をしても楽しそうに会話を膨らませて言葉のキャッチボールをしてくれる。  男性社員は私も含め、全員彼女の虜になってしまった。  男というものはなんだかんだ言っても美人に弱い生き物なのだ。  その美人が気さくで、会話が弾んでしまったら好きになってしまうに決まっている。  そして私は初めて躊躇した。  今まで他者を自由に操ってきたが、心までは操れない。  例えば「私に話しかけろ」と命じたところで、それで私を好きになるわけではない。下品な話をすれば、一緒にホテルへ行って既成事実を作ったとしても、彼女が私を好きになる保証はないのだ。  能力は役に立たない。  私は初めて、能力に頼らず物事を推し進めるためのアプローチを開始した。  加賀美涼子の好きな男性のタイプや、趣味、これだけは許せない地雷などの聞き取りは簡単だった。  秘書課の他の人間に命じればペラペラと教えてくれるからだ。  私はデータに基づき彼女をデートへ誘う決心をした。  生まれて初めて『手に汗握る』ことを経験したのだ。
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