第1章

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 ソファで膝を抱えて頭を埋めたままの格好でいると、玄関のドアが開いて帰宅したような物音が耳に届いた。 「ただいま、…どうしたんだよ、電気も点けないで」  隙間から部屋の明かりが灯されたのが見えて、覚悟を決めて顔を上げた。 「お帰りなさい」 「具合悪いのか?」  心配そうに隣に座り、額で熱の確認をする手がちょっとひんやりしていて気持ちが良い。 「体調は何ともないわ。あのね、アルト、その…」  言い出しにくくて口ごもると、先を促しもせず、黙って私のタイミングで言うのを待ってくれている。 「…今日、仕事が早く終わったの。それで、たまには私がごはん作ろうって思ってやったら失敗しちゃって」  話しているうちに、なぜだか目頭が熱くなってきて視界がぼやける。  自分の不器用さが情けなくて、悲しくて、みんな普通にしていることが何で私は出来ないんだろうと思うと辛くなる。  好きな人にごはん作ってあげたいと、ただそう思っただけなのに。  私の話を聞いて、アルトが立ち上がってキッチンに状況を確認しに行く。 「うわ、また派手にやったな」  電子レンジの中には飛び散った卵の残骸、シンクの中にはいくつもの中身がこびりついたボウル、極めつけに盛大に焦がしてしまった鍋。
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