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私転生します
「ごめん間違えた」
そう言って、目の前で深々と土下座する羽が生えたその人は、全体的に白い。
「間違えたって何が?」
霧のような雲が立ちこめ、地面を踏む感触や風の冷たさもないその空間は、私と白い人の声しか響かない程静かである。
数分前、私は雨の中傘をさして歩道を歩いていた。その少し後ろには帰路を急ぐサラリーマンがいたはずだ。しかし、ハッと気づけばいつの間にかここに立っていて、白い人が驚いた表情で私を見つめていた。
「今日、本当に死ぬはずだったのは佐藤覚だけだったんだ」
知らない人の名前が出てきてそいつは誰だと訊くと、あの時私の後ろで歩いていたサラリーマンの名前だった。
どうやら私は巻き込まれ事故で死んだらしい。
ブレーキが故障した無人トラックが歩道に突っ込んで来て、サラリーマンを轢き、私をも轢いた。トラックを操ったのは、この白い人。
無事、お目当てのサラリーマン佐藤覚は死んであの世に送ったところで、今日の仕事は終わりって思ってたら、私がここに来たんだと。
「君は死んじゃったから生き返らすことはできないし、人生を元に戻すことも出来ないんだ。しかも天国にも連れて行ってあげられない」
「え、天国行けないの?」
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