エピローグ

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 下嶋は昨シーズンをもって、現役を引退していた。 「3日で体にスイッチを入れます」。トレーナーの山口はそう言った後に続けた。 「でも僕が保証できるのは来シーズンまでです。その後どれくらいできるかはわかりません」  皮肉にも、その腕と同様に予言も正確だった。  そのシーズンが始まるまでの下嶋は、葵のためにあと5年はプレーしたいと考えていた。  それでも迷わず首を縦に振った。  そして下嶋はフォワードとして蘇り、時貞や玉利、谷城らとともにフェルニーナ千葉をクラブ史上初のリーグ優勝に導いた。  下嶋は次のシーズンも引き続きフォワードでプレーした。  天皇杯は制したが、リーグは大阪に雪辱され3位に終わった。リーグカップはベストフォーで敗退した。  このときすでに、千葉に時貞はいなかった。  大阪とのリーグ優勝決定戦の前に感じていた予感が当たったのだ。  2位以下を10ゴール以上突き放してZ1得点王になった時貞は、シーズン終了後にドイツのクラブに移籍していた。  前シーズンにUEFAチャンピオンズリーグを制した、マーク・シュウォルツのいるクラブだった。  ドイツに舞い戻った時貞はすぐさま頭角を現した。  2年目となった今シーズンは、マーク・シュウォルツとのツートップでヨーロッパのサッカーシーンを席巻し、先月末に行なわれたチャンピオンズリーグ決勝で2年ぶりの優勝をクラブにもたらした。  時貞はMVPこそシュウォルツに譲ったものの、得点王を獲得した。  優勝と得点王はいずれも日本人初の快挙だった。
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