「白雪姫の王子様はね…?」

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――その日、テレビでは未解決事件の特集を組んでいた。 凶悪犯は貴方のすぐ近くに潜んでいるかもしれませんという、司会者のやんわりとした脅迫、けれどもその顔はなんだかとても面白がっているようだった。テレビ画面の向こうにいる誰かが震えあがるのを想像して、興奮でもしているような。 偽物の涙を滲ませて「本当にかわいそう。早く捕まってほしいと語るのはゲストである年増の女優。 清純アイドルとしてデビューした過去を引き摺って今なお年齢に似合わないひらひらとした洋服を着て、泣いている自分にどこか酔っているようだった。 そんな下衆な空間の中心には本来の主役である、未解決事件の遺族がモザイクを掛けられ、「本当に犯人が捕まらないと死んだ娘が浮かばれないんです」と涙まじりに言うけれど、どこか見世物のようだった。 「こんな番組、誰が楽しむんだろう。見ている人は同情して、自分はこうじゃなかったって勝ち誇るの?こんな番組で本当に犯人が捕まるの?」 “私”は、テレビ業界の衰退を嘲笑した。 不幸で客を引き付ける粗悪なサーカスみたい。 勿論警察が狭い空間で事件を解決に導くのは難しいことだってのは想像がつく。 メディアの力を頼らなくちゃならないってのも分かるけれど、この番組を一時間見る気にはなれなかった。 けれども、チャンネルを変えなかった。 いつもこの時間に見ている推理ドラマが、サッカー中継で休みだったのだ。 音の無い空間はなんだか人を不安にさせる。 自分には「音」は必要不可欠なものだった。 「音」が無いと自分が消えてしまいそうな錯覚に突き落とされるのだ。 だから部屋でテレビの電源を消すということはほとんど無かった、眠る時も携帯音楽プレイヤーかラジオで耳の中を音で充たす。 それに加えて最近は《愛する人》と夜通し電話をするのも好きだった。どうでもいい話をして夜という闇の時間を切り抜けていく。 自分は途中で眠ってしまうことがあっても《彼》は電話を切らずにいてくれる。 目覚めた時の通話時間の長さが愛を物語ってくれている気がした。
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