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それから何度かの休みを彼女と過ごし、健全な時間に僕は彼女を自宅に送り届けた。
お茶でもと誘ってくれることもあるけれども、密室で二人きりというシチュエーションは下心がありまくりだけれどもそれを抑えておきたい僕には危険な気がして、あがりこむこともあれば逃げ帰ることもあった。
どちらかというと、逃げ帰る方が多い。
そして、秋も深まった今日、香嵐渓に向かうために早めの時間に迎えにきたというわけだ。
相変わらず、谷原さんのお宅のお隣には青いCX-5が停まっている。
僕が欲しいと思った車だけれども、お隣に置いてあるのがネックだ。
同じ車の色違いでここにやって来たら、真似をしたみたいな気がしなくもない。
それに……僕は谷原さんとゆくゆくは一緒になりたいというかそういう予定を勝手にしているし……もしかすると子供だってできるかもしれないと思うと、この車はファミリー向けじゃない気がする。
やっぱり、スライドドアのもっと大きな車の方がいいと思うかもしれない。
それとも、彼女が使うのにちょうどいいのはコンパクトな車だろうか?
そもそも彼女は車を運転しない?
ガラガラと物置スペースを開けて玄関チャイムを鳴らした。
いつものように涼やかな声で返事が聞こえて、間髪入れずに玄関が開く。
一応、恒例行事のように僕は一つ溜息を吐いたけれども僕の意を得たりという顔をする彼女はいつもの言い訳を述べる。
「さっき、朝刊を入れたばかりだし、先輩の車のエンジン音を聞いて念のために覗きましたよ?」
右手の人差し指と親指で丸を作ってその丸の穴から片目を覗かせて笑っている。
僕はもう、何も言えなくなってしまう。
確認したのならば、前よりはずいぶんとマシな気がする。
それに、ぐちぐちと嫌味なことを言って嫌われるのも本望ではない。
「寒いかもしれないから上着を羽織ってこい、ですよね?」
さらに、僕の言いたい言葉を先回りして言ってしまい部屋の中へと入り上着を羽織って荷物を持って現れた。
準備のいいことだ。
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