1389人が本棚に入れています
本棚に追加
/398ページ
窓の外を眺める僕の視界の隅に彼女が戻ってきた。
ちょっとだけ、恥ずかしそうにしながら。
「教えてくれてありがとうございます」
消え入りそうなほど小さな声で言われたお礼。
「そのままでも面白いとは思ったんだけどね」
「止めて下さいよ! 恥ずかしい!」
「うん、じゃぁ、お互いにそういうことは教えることにしておこうか」
「???」
「だから、鼻毛が出てますよとか、鼻くそがついてますよとか、そういうの」
声を出して笑った谷原さんは僕の意図したことが分かったらしい。
「社会の窓が開いてますよとか?」
小さな声で言われてドキリとしてついつい自分のズボンのソコを見てしまった。
開いてなくてホッとした。
谷原さんは僕の前でケラケラと笑っている。
意地悪だ。
「意地悪だね」
「意地悪を言える距離にいますからね?」
にんまりと笑っている。
いつも僕が言うほうなのに。
それは、好きって言っているのと同じなんだよ?
君は知っているのかい?
笑う谷原さんを置いて僕は伝票を掴んで立ち上がった。
慌ててついてくる彼女の気配が僕に伝わる。
こういう時間が愛しくて楽しい。
最初のコメントを投稿しよう!