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「じゃあ、嫌?」
問い重ねられて、視線を外す。嫌だったら、そもそも、最初から何も許さないに決まってるだろ。ただ、それと、良いか悪いかと言う問題は全くの別で。
「先輩」
顔を上げてしまって、後悔した。子どもでもない、後輩でもない、初めて見る表情に、呑まれたように否定が消える。折原の手が着衣越しに下半身に触れて、笑う。
「ほら、先輩も勃ってる」
兆しかけていたそれを柔く揉まれて、身体がびくりと揺れる。
「嫌だったら、止めます」
その声に、留めようと腕を掴みにいった指先が中途半端に終わった。
引き離そうとしているのか縋っているのか分からない力加減に、駄目押しのように折原の声が静かに告げる。
「嫌ですか?」
紛い物の薄暗い密室で何をしているのか、と。冷静な自分が言っている。それは、また別の一線だ。また後悔することになる、と。分かっていて、それなのに首を縦に振れなかった。忘れたみたいに言葉も出ない。
「だったら」
宥めるような声が落ちてくるのを、ただ受諾することしかできなかった。
「俺に付き合ってください」
下着の中に差し込まれた指先の冷たさに、小さく肩が跳ねる。どんな顔をしていれば良いのか分からなくて顔を背けると、追いかけてきた唇に口づけられた。くぐもった声がキスの中に消えていく。駄目だ、と思った。もう遅いかもしれないと思いながら、駄目だ、と。また、間違った深みへと入り込もうとしている。直接与えられる刺激で、疑いようもなく快感は育ち始めていた。流される。流されたいのかそうでないのかすら分からないまま、ただ事実として、落ちそうになっていた瞬間。ガチャリとドアノブを回す音がした。
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