二、

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油を含んだ壺をひとつ捌くことも商売である。 油問屋はふと考えてみるが、アンフォラが姿を変える数枚の銅貨と、船倉を荷で満たした船が姿を変える途方も無い金貨とを比べたとして、そこに生まれてくる利益というものが、同質のものとして結びつくことは決してないように思われた。 アッピウス家は過去より、商人・庶民の生活とはかけ離れた高みにあって、富という牧草を悠然と食みながら、際限なく肥え太り続ける雄牛のような存在なのである。 ここまで考えの及んだところで、油問屋の背中に仕事を終えた人夫の声がかかった。 油問屋は重い体を御者台へ引き上げながら、油壺が山をなす荷台を一瞥し、馬の背に這う手綱を取った。いざ出発! 車輪の回転に乗じ、足のないアンフォラを保持する木枠が派手にがたつくが、万が一にも崩れる心配が無いことを油問屋の経験が保障していた。 壺の中で揺れる油は、アッピウスの屋敷では果たしてどのようにして重宝されるのだろう? 調理に要されるのはもちろんのこと、香りのよいオリーブ油は、専ら照明に用いられる。 これより納入する油が、アッピウス家にのみ許された、 在りし日のローマ―― 乳房豊かな裸婦像、絹で張られた寝椅子、果物を取り合わせた高台 、染め地マントの金糸の縁取り、夜毎繰り返される宴席と列席者の指に輝くめのうの指輪 ――を照らすとすれば、どうか? 油問屋は夢のような別世界に思いを馳せた。 また、自らの骨折りもそこへ組すれば、いくばくかの慰みになると考えながら、硬い御者台の上で痛む腰と、労働にすり減る自尊心をいたわった。
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