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----- 2015/12/08 --------------------
キナ子は委員会の手伝いを終えると、人が少なくなった校舎を下り、下駄箱に向かった。
床に教科書には見えない本が落ちている。
近寄って確認すると「市場経済の本質」という難しそうな本だ。
手にとって裏を確認してみる。
「高松 明」とマジックで名前が書かれている。
中学生にもなって自分の持ち物に名前を書くのかと、少し微笑んだ。
ひとまず先生に落し物として預けておこうとその場を離れようとしたとき、
足下、本が置いてあったところに「手紙」が落ちていることに気がついた。
薄い桃色の手紙。隅に「キナ子さんへ」と書かれている。
これがキナ子と明の出会い、そして運命だった。
----- 2015/12/09 --------------------
シュウイチはマンションの自室から飛び出すと、近所の電話ボックスに駆け込んだ。
夏の熱気のせいか走ったせいか、額に汗が浮かび、息は荒い。
電話ボックスの中から、何かを探すように外を見回すシュウイチ。
ふぅふぅと荒い息を吐き出す。
電話ボックスの中からは、夏の日差し、人気の無い道路、遠くで聞こえる車の走る音が伺えるばかりである。
道路の角を曲がり、電話ボックスに近づいてくる人影がある。
少女だ。
赤いフードに赤いワンピース、赤いミニスカートの少女。
手には大きな籠をもっている。
少女は一歩また一歩と電話ボックスに近づく。
シュウイチの目に少女が持つ籠の中身が見えた。
パセリだ。
籠の中にパセリが山と積まれている。
少女が歩くたびにわずかに葉が擦れる音を立てる。
シュウイチの息が一層荒くなり、手は小刻みに震え、目の焦点は定まらなくなる。
赤い少女が近づく、もう少女の表情が見える距離だ。
少女の籠に積まれたパセリもまた距離を縮めていく。
パセリの葉がシュウイチから見える距離まで近づいたとき、シュウイチは見た。
パセリの山から覗く眼を。
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