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翌朝、岩崎が出勤して自席に着くなり内線電話が鳴った。署長室からだ。
「おはようございます。岩崎です」
(ああ、今、空いてるか?)
「はい、大丈夫です」
(じゃあ、ちょっと来てくれ)
「分かりました。すぐ行きます」
おそらくは加藤の件だろう。加藤美咲の通夜以降、岩崎はまだ報告らしい報告をしていなかった。
岩崎はすぐに署長室に向かい、ドアをノックした。
「入ってくれ」
「はい、失礼します」
ローテーブルの角を挟み、岩崎は署長の直近にあるソファに体を沈める。
「……で、どんな塩梅なんだ?例の件は」
「はい、今日の夕方に加藤を署に呼んでいるので、おおよその話はそれで終わるかと思います」
「署に呼んでいる?なぜ?」
「ああ……いえ、週末に私が加藤の家に行ったので、今度は来てもらおうかと。……それだけです」
「……そうか。それで、事件絡みの線はあるのか?」
「ええと、まだちょっと確認することもありますが、まあ、加藤美咲がいじめにあっていたとか、犯罪の被害に遭っていたとかいう状況はなさそうです」
「じゃあどうして14歳が自殺するんだ」
「署長、死んだ加藤美咲は、心は充分に大人でした。普通の14歳とは明らかに違います」
「説明になってないぞ、岩崎」
「……そうですね。自殺の具体的な動機については、今日明日中に、おおよそのことは判ると思うんですが、今の時点では、なんとも……」
「そうか。……岩崎」
「はい」
「このまま任せていいのか?」
署長が岩崎の顔を覗きこむ。定年が近いこの署長、元々は刑事が畑だ。
痩身ながら眼光に衰えはない。そして口よりも目が語るものに重きを置く。
岩崎は意識して目を逸らさぬようにして答える。
「はい。大丈夫です」
岩崎が答えたあとも、署長は岩崎を見つめている。
時間にすれば5秒ほどだったが、岩崎には倍以上に感じられた。
「やはり知り合いというのも良し悪しだな。岩崎、一つだけ言っておく」
「……なんでしょう」
「危険なものを一人で抱え込むな。抱え込むなら俺も仲間に入れろ」
「……了解しました」
やはり年の功には勝てないな。そんなことを考えながら岩崎は署長室を出た。
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