-♀-

78/131
183人が本棚に入れています
本棚に追加
/220ページ
 翌朝、岩崎が出勤して自席に着くなり内線電話が鳴った。署長室からだ。 「おはようございます。岩崎です」 (ああ、今、空いてるか?) 「はい、大丈夫です」 (じゃあ、ちょっと来てくれ) 「分かりました。すぐ行きます」  おそらくは加藤の件だろう。加藤美咲の通夜以降、岩崎はまだ報告らしい報告をしていなかった。  岩崎はすぐに署長室に向かい、ドアをノックした。 「入ってくれ」 「はい、失礼します」  ローテーブルの角を挟み、岩崎は署長の直近にあるソファに体を沈める。 「……で、どんな塩梅なんだ?例の件は」 「はい、今日の夕方に加藤を署に呼んでいるので、おおよその話はそれで終わるかと思います」 「署に呼んでいる?なぜ?」 「ああ……いえ、週末に私が加藤の家に行ったので、今度は来てもらおうかと。……それだけです」 「……そうか。それで、事件絡みの線はあるのか?」 「ええと、まだちょっと確認することもありますが、まあ、加藤美咲がいじめにあっていたとか、犯罪の被害に遭っていたとかいう状況はなさそうです」 「じゃあどうして14歳が自殺するんだ」 「署長、死んだ加藤美咲は、心は充分に大人でした。普通の14歳とは明らかに違います」 「説明になってないぞ、岩崎」 「……そうですね。自殺の具体的な動機については、今日明日中に、おおよそのことは判ると思うんですが、今の時点では、なんとも……」 「そうか。……岩崎」 「はい」 「このまま任せていいのか?」  署長が岩崎の顔を覗きこむ。定年が近いこの署長、元々は刑事が畑だ。  痩身ながら眼光に衰えはない。そして口よりも目が語るものに重きを置く。  岩崎は意識して目を逸らさぬようにして答える。 「はい。大丈夫です」  岩崎が答えたあとも、署長は岩崎を見つめている。  時間にすれば5秒ほどだったが、岩崎には倍以上に感じられた。 「やはり知り合いというのも良し悪しだな。岩崎、一つだけ言っておく」 「……なんでしょう」 「危険なものを一人で抱え込むな。抱え込むなら俺も仲間に入れろ」 「……了解しました」  やはり年の功には勝てないな。そんなことを考えながら岩崎は署長室を出た。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!