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「道路維持課?」 「はい、例の事故現場の花が一杯なので片付けていたら花の陰にスポーツバッグが置かれていたらしくて、これはさすがに処分できないということで届け出に」 「ん、分かった。取りに行く」  スポーツバッグ……か。何が入っているんだろう。  岩崎は会計課に行き、その赤い合皮製のスポーツバッグを受け取った。自席に戻り机の上に置く。  ちょうど昼か……。一寸考えてから、岩崎は加藤に電話をかける。 「俺だ、加藤、今いいか?」 (ああ、暇だ)  暇……か。今、暇な時間ほど加藤を苦しめるものはないだろう。 「じゃあ予定変更で、昼一番で署に集合できるか?」 (構わんが……何か見つかったのか?) 「加藤、美咲ちゃんは赤いスポーツバッグを持っていなかったか?」 (……そういえば、持ってたな。ん?言われてみれば見当たらないな) 「そのスポーツバッグ、事故現場に置かれていたぞ」 (なに?) 「誰が置いたかは判らん。それと、ファスナーが南京錠で結ばれている。加藤、この南京錠に心当たりはあるか?」  しばらく間が空く。加藤は考えているようだ。 (……おそらく、ある) 「鍵が……あるのか?」 (……おそらく、な) 「そうか、まあいい。その、おそらく……とやらを持って署に来てくれ」 (了解した)  あとは……富永か。岩崎は続けざまに机上の電話で富永にかける。 (あ、課長、すいません。すぐかけ直します)  一方的に切られた。が、30秒ほどで折り返しが来た。 「富永、今どこにいる?」 (図書館です) 「図書館?なんだ、サボりか?」 (違いますよ。調べものです。それより、どうしたんですか?) 「ああ、加藤美咲の物と思われるスポーツバッグが事故現場に置かれていた」 (え?) 「鍵がかかってるんで中身は不明だ。加藤が鍵に心当たりがあるらしい。集合を早めるぞ、午後一番に加藤が署に来る」 (……分かりました。急いで戻ります) 「応接室に集合だ。じゃあな」  ……図書館で調べものだと?あいつは何を掴んだんだ?  想像がつかない岩崎は、もう一度、赤いスポーツバッグを見つめた。
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