無重力の砂時計

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会長はいろいろ策を講じて自分を近づけないようにしているだろうと予想していたのに、すんなりと彼のマンションに到着した。 道すがら銀座の駿河屋に電話して雪兎の所在を尋ねたが、やっぱり雪兎は名古屋の展示会に赴いていて留守にしていた。 「これは兄ちゃんを犯す気満々だと思ったのに・・・・なんだか会長にしては策が緩いような気がする」 「確かにあの方ならルートが工事になるように細工したり、近道をさせないように警察回したりしてましたからね」 今まで、あの人が悪事を働く時はとんでもない邪魔を何重にもしてきていた。 なので、こんなに簡単にたどり着けるなんてちょっと拍子抜けしたのも事実。 「なんか、嫌な予感もしないでもない」 「でもここまで来たら行くしかないんじゃないですか?ココに我々が来ることも手の内の中なのかもしれませんしね」 「・・・・・・・・・・」 恭介もなんとなく気が付いていたようだ。 そのままプライベートエレベーターに乗って最上階まで行き、徐にチャイムを押した。 インターフォン越しに声がする。いつもの落ち着いた雷文虎太郎の声だ。 「理玖、入れよ」 「やっぱりお見通しだったか」 誰がどんなタイミングで現れるのかも計画通り事が運んでいるのだろう。 感情が全く現れない、飄々とした印象だ。 出迎えもないので勝手に玄関を開け、勝手知ったるリビングへ一人で進んでいく。中央のソファに髪を掻き揚げながら一人の男が笑みを浮かべながら座っていた。 いつもは着流し姿なのに、なぜかバスローブ姿でまだ日があるというのにワインを嗜んでいる。 「なんでそんな恰好なんですか?俺の来るのがわかっていたでしょ?」 「まぁね。お前も飲むか」 「掟があるでしょ?」 「ああ、まだ高校生だっけ」 「なんでもいいんで、要件言ってもらえますか?俺を呼びだすつもりだったんでしょ?兄ちゃんはいるんですか?」 「いないよ、ほら・・・・」 会長は兄のスマホをポンと投げてよこした。 コッチがGPSで捕捉していることをどうして知ったのか・・・・組長はこの事を知ってしまったのだろうか。 なにも言わずに投げられたスマホを見ていると、おかしそうに笑ってこちらを見た。 「桂斗には適当に言っておいてやったよ。お前が行動捕捉しているなんてこれっぽっちも言ってないぜ」 「なにをさせたいんですか?」 目の前にいる艶っぽい漢が何を考えているのか図りかねていた。
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