3/16
719人が本棚に入れています
本棚に追加
/151ページ
 ある日、悪いけど姫も凪に付き合ってやってくれと香久山は灰原に言われた。不思議に思いながらも香久山は出かけ鮫島と合流した。  ───戦争だった。  灰原配下の戦闘実戦要員は自分と那須と相良だけだと香久山平は思っていた。おそらく他の二人もそう思っているだろう。ヤンキー上がりの那須も、武道家だと聞いている相良も、いかにも戦闘員らしい風貌だ。そして香久山は特攻要員、最初に命を落とすのが唯一無二の役割だ。自分を含むこの三人が実戦部隊だという香久山の認識は、この日を境に根底から覆された。  鮫島凪こそが『実行』そのものだったのだ。灰原鳴海のあらゆる暗部を担うことこそが存在理由だ。  後日、灰原は香久山に鮫島の仕事内容について口止めした。実行部長であることが表沙汰になると間違いなく鮫島は暗殺の標的になるし、今後のヤマも踏みにくくなる。わざわざ口止めされなくても口外する気は香久山にはなかった。香久山自身、自分が特攻であることを言いふらす気はない。そんなことをすればおそらく十日と生きていられないからだ。特攻として灰原の楯になって死ぬなら望むところだが、路上で狙撃されるなんていう無意味な死は願い下げだ。  そして香久山は気づいた。表の実戦戦闘員が那須と相良で、裏の秘密工作員が他ならぬ自分と鮫島なのだ。  その件を境に、香久山と鮫島は秘密を共有する仲になった。容姿も性格もなにもかも対照的な二人なのに、物事に対する割り切り方だけはよく似ていた。拘りが無いというべきなのかもしれない。或いは極端な諦観なのかもしれなかった。いつしか彼らは二人揃ってヤマを踏むことが多くなり、二人だけの秘密も次第に自然と増えていった。
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!