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夏氷1
その朝俺は、奇妙な感覚に襲われた。
『何かが足りない』
そう感じたのだ。
哲学的な意味など何も無い。
朝起きて、ベットの上で眠い目を擦りながら目に入った光景。
単なるベッドルーム。
昨夜眠る前に見た景色と変わるわけのない一人暮らしの部屋。
なのに……何かが違う。
何かが足りないのだ。
俺はもう一度部屋の中をぐるりと見回した。
やはり足りない。
「何が?」
思わずそう呟いて目頭に手を当てる。
確かに何かが足りないのに、何が足りないのかが分からない。
そう、それはまるで、昨日までテーブルの上にほったらかにしていたポケットティッシュがいつの間にか無くなっていた……くらいのくだらない物足りなさ。
なのに何故だろう。
気になって仕様がない。
一体、何が足りないって言うんだ!
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