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ショバ代の現代事情
【序章】
2011年8月、板橋区――。
東武東上線の大山駅にある
『ハッピーロード』商店街。
夕方の時間帯とはいえ、
まだ気温は30度を過ぎていた。
元ヤクザの金田輝(かねだあきら・58)は、
商店街を歩きつつ電話でボヤいていた。
相手は岡元(50)。
金田の左手小指は、
不義理のために切断されていた。
二つボタンまで開けられた
白い半袖シャツの胸元には、刺青がのぞく。
金田 「岡元ちゃんョ~」
金田 「上納金(カスリ)も面倒だし、
オイシイ仕事が見つかったから
ヤクザから足を洗ったものの……」
「お前の舎弟の澤田をシバいて
訴えられてョ、えらい目に遭ったぜ。
今は、喧嘩にやられたヤクザが
警察に泣きつく時代か」
岡元 「金田さん、すみません。
うちの親爺(オヤジ)も解決金欲しさに、
澤田に警察行かせたみたいで……」
金田 「お前の親爺は俺の後輩とはいえ、
いっぱしの組の親分だろ。
たかが50万ぐらいで……あ~あ、
バブル景気の
羽振りいい時代が懐かしいぜ」
岡元 「ですね。俺もあの頃はガキだったけど、
お零れがハンパなかったし」
金田 「それに暴対法や
暴排条例なんかもなかったから、
オマワリも民事不介入で、
やりたい放題だったもんな」
と、商店街の外れに
開店した居酒屋『四回戦』があった。
店頭に、開店祝いのスタンド花が
二つ立てかけられてあった。
金田は、その店の前を通りながら、
金田 「ん?」
4人掛けのテーブルが四つ、
カウンター5席を入れて21席ほどの
10坪の店内は、三組の客で賑わっていた。
テーブル席二組、カウンターに一人。
店の前を通り過ぎる、金田の後ろ姿。
金田 「おい、新しい店ができたぜ」
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