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自分でやるか、他人にやられるか。
その言葉に「どっちかを選べ」という無慈悲な尾が付いてくる。
涙と鼻水、脂汗が入り混じったそれは、自身に《不自由な選択》を与えた人物に向けられる恐怖が具現化したのではと思うほど、鈍く光を吸い込んだ。
「手伝ってやろう。安心しろ、途中で選択肢を変えるのも【自由】だ」
温もりや思いやりなどの、人間らしい感情を根底から否定するような冷たく尖った声色は、強いられている彼にとってはとても長い死刑宣告に近いものがあった。
それでも、どこかに希望の破片が落ちていまいか、地面を探すもののそんなものは当然あるはずもなく、せめて天井が剥がれてそこからコツン、と落ちてこないか。
などと、凡そ有り得ないような事ばかりが脳裏を巡った。
「いっ!?」
言葉に思いやりと温もりを無くした男の手が、彼の右手人差し指を掴む。
あんなにも冷たい言葉の千枚通しで突き刺したその手は、それに反して人間らしい体温を感じることが出来た。
恐ろしく冷たい機械のような男の体温。指から伝わる温度に思わず口走る。
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