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「笹音(ささね)、こっちへいらっしゃい」
薄桃色の花柄をあしらった振袖の少女が、しとやかな声で呼びかける。
少女は艶やかな黒髪を美しく流し、さほど広くはない和室のイスに、はんなりと腰掛けていた。
ストーヴの揺れる灯が、雪見障子から射しこむ日の光りに溶けている。
凍てつく寒さに庭木がぴしりと鳴る。
笹音はまだ小さい。
呼ばれてスルリと音も無く少女の足元に近づく。
「さあおいで、かわいい笹音」
少女は読みふけっていた本にしおりを挟むと、笹音を抱きかかえて膝の上に乗せる。
笹音は少女の膝の上が大好きだ。
「お話しの続きを読んであげましょう」
笹音の頭をやさしく撫でると、閉じた本をそっと開く。
暖かい膝の上が気持ちよくて、子猫の笹音は嬉しそうに「ニャー」と鳴いた。
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