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「なんで吉田君に、こんなひどいことをするの?」
満は、眉をひそめながらきいた。
「神島が言うに、金を払わない罰らしい。吉田の家は母子家庭だから、金を払える余裕なんてないんだろうけど」
「悪いことしてるって自覚はあるのか? 犯罪だからな、これ。いつかはバレるぞ」
正樹がそう言うと、澤田はうつむいた。
多少は罪の意識を感じているのかもしれない。
「今からこの二つの動画を、警察署に見せに行こう」
落ち着いた口調で、満は提案した。
警察にとって、今回の事件に関する目撃証言などは、たとえ些細なものであっても喉から手が出るほど欲しい情報だろう。
犯行場面の動画が残っているとしたらなおさらで、吉田に対する行いも、見過ごすことができない事案のはずだ。
「……」
澤田は目を伏せたまま黙っている。
動画のことを追及されるのは、時間の問題だと覚悟していたのかもしれない。
満がそう思っていると、やがて、彼は口を開いた。
「今はまだ決められない。一日だけ考えさせてくれ」
「わかった。じゃあ、明日の放課後に校門前で待ってる。そこで答えを聞くから」
満はうなずいた。
ここで無理やり澤田を警察署に連れて行こうとすれば、この場で二つの動画を消す可能性がある。
それに、そもそも彼は、吉田の胸を切り刻む動画だけは消して、犯行動画を警察に見せるということもできたはずだ。
そうしないで動画を消さずに残しておいたのは、いじめ動画をいずれ警察に見せて自首しようという気持が、わずかでもあるからだろう。
もちろん、今日中に動画を消す恐れもあるが、今は彼を信じるしかない。
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