第〇幕

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 京の古都にある屋敷。その大広間に男女5人が集っていた。皆、着物に袴といういでたちだ。上座に座り床の間を背負う男は静かに口を開いた。 「菊端、聞こえますか。」  呼びかけられた少年は静かに目を閉じ、神経を研ぎ澄ます。 「何の声も鳴らない。今は静かなものだ。」 「そうか…。」  上座の青年はそっと顎を撫でる。 「高天(たかま)様、今こそ動くべきでは。」  青年にそう呼びかけたのは長髪を一本の三つ編みにゆった少女だった。彼女の言葉に高天と呼ばれた男はそっと首を振った。 「いいえ。今動くのは得策じゃない。そうですね、菖蒲。」  彼はそういって自分の左側に座る女性に声をかけた。口元を黒布で覆った女性はそっと面々を見渡し静かに首を縦にふった。 「今、行動しても無駄かと。奴らがこれから起こそうとする行動は、我々の手に負えるものではない。しかるべき立場の者に状況を気付かせる必要があります。」 「そんな悠長に構えている余裕があるものか!」  先ほど発言した三つ編みの女性が声を上げる。それを視線で制止して男は続けた。 「今回で、全てにけりをつけます。そのために僕も準備をしておきます。」  そういって男は懐から巻物を取り出した。それをみた4人は息をのんだ。 「おい、高天!それ…。」 「高天様!」  ざわめく3人に対し、菖蒲と呼ばれた女性は眉尻を下げ 「それで終わるものか…。」  そう一言つぶやいた。
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