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「アタタ、ちょっ、もう少し、丁寧にっ!」
同じ寮に住んでいる友人、後藤大二郎を呼び出して、背中に湿布を貼ってもらっている。
「お前、これ誰にやられたんだよ? お前って同期の中じゃ結構強いよな?」
同情しつつも絶対楽しんでる声色で、次々と湿布を貼っている後藤の含み笑いが聞こえた。
「警備課の谷木さんだ。……あの人化け物か? めちゃめちゃ強い……」
谷木さんは、本気で向かっていく俺を指先で転がすような人だ。
あれって合気道なのか?
こっちの勢いを利用しての攻撃なんだろうな、と頭では分かっているんだけど、谷木さんの襟を掴もうと手を伸ばすだけで、転がされる。
まるでアクションドラマの悪役のように。
「谷木さんか!? あの人去年、合気道で全国優勝してなかったか? 空手だっけか?」
「いや、全然知らなかった。俺、武道とかやって来なかったから……」
知ってたら果敢に挑む、なんていう無謀な挑戦は絶対しない。
俺は陸上馬鹿だ。武道とは縁の無い生活をしていた。
だけどもともと素質があったのか、警察学校で武道を習ってからは、それなりに強かった。
同期の素人連中の中では、必ず上位に入った。
しかし、やっぱり経験者はレベルが違う。
警備課でやっていくには、あのくらい強くないとダメなんだろうか……。
「そういえば、お前今、渋谷署の警備だっけ? あそこの真鍋さん、見た?」
背中の上から、ちょっとはしゃいだ声が降ってくる。
「真鍋さん? だれだ、それ?」
「お前さあ~、陸上馬鹿もいいけどさー。チェックしろよぉ~。そして俺たちに報告しろよぉ~」
「なに!? そんなにすごい人がいるのか!?」
俺は頭を巡らせた。
真鍋さん、真鍋さん……、あ!
「……総務の真鍋さんか?」
「何、涼しい顔してんだよ! 彼女ミニスカポリス東京代表だぞ!?」
なんだそりゃ。
俺は白けた顔して、さあ寝るか、と布団にもぐりこんだ。
「おい! 夜はこれからだぞ! もう枯れたか!?」
笑いながら布団の上からポンポンしてくる後藤に「おやすみ、サンキューな」と伝え、目を瞑った。
体中が痛い。でもこのままじゃ嫌だ。
強くなりたい、強くなりたい。
頭の中で反芻していたけれど、いつの間にか眠りの渦に飲み込まれた。
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