愛と義の間-徳川家康-

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「これが江戸城か…」 二人は、目の前にそびえ立つ城をまじまじと眺めた。 すると城のあちこちで作業をしていた家臣達が家康が来ていることに気づき、次々と集まってきた。 「家康様!その様な格好をされていた故遠目からは気づきませんでしたぞ!」 「暑い時は薄地のものを着るのが一番だ。 暑さの前じゃ見た目なんて二の次、三の次だよ」 「天海殿も来てくれるとは! …して、その背中のものは?」 光太郎と家康が背中に大荷物を背負っていることに気づいた家臣がそう言うと、 「ああ、あんたらに差し入れ」 と家康が答えた。 「おお!」 家臣達は嬉々として二人が包みを開けるのを見守っていたが、 中身を見た瞬間にその声は落胆のそれに変わった。 「これは…何でしょう…」 「見てわかんない?焼き魚」 「それは存じておりますが…」 あからさまに困惑した様子を見せる家康の家臣達だったが、 「おお!魚だぞ!」 「それも海で獲れる種ではないか!」 と場を賑わせている集団がいた。 それは政宗が貸し出している大工達の集まりだった。 海から距離のある米沢の地では、川ではなく海で獲れた魚というのは珍しいようだった。 次々と政宗の家臣達が串焼きに手を伸ばし、 美味しそうに平らげていった。 「まさかの好評だな…」 「びっくりだね…」 光太郎と家康が戸惑いながら差し入れを食らう家臣達を眺めていた数時間後。 「は…腹が…」 「だ、駄目だ、ここで漏らしてしまう…!」 そこは地獄絵図と化していた。 どうやら宿からここまで来る間に、 魚はすっかり傷んでしまっていたようだ。 集団食中毒を起こした政宗の家臣達を見て、 光太郎と家康は顔を見合わせた。 その後は彼らに気付かれぬようそろそろと宿へ逃げ帰ってきたが、 後日政宗から光太郎の元へ文書が届いた。 『城造りが順調に進んでいると聞き何より。 ーーーところで、俺の家臣達だけが集団で腹を壊したと聞くが、 まさか、お主の主君は俺の家臣に毒を盛ったのではなかろうな?』 光太郎は家康に読まれる前に文書を燃やすと、 ーーー本当に、ごめんなさい… と、心の中で哀れな家臣達に謝罪をした。
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