愛と義の間-徳川家康-

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「政宗殿!お久しぶりです」 光太郎は政宗が部屋に通されると、その懐かしい顔にすぐさま挨拶をした。 「ほう、なかなか良い出来ではないか」 「政宗殿の送ってくださった方々のおかげですよ」 「ああ、その節は沢山の塩を持たせてくれたようで感謝する。 …が、どうやらお主らの差し入れを食べた者が揃って腹を下したようだな」 「…ええと…」 光太郎が言葉に詰まっていると、政宗はじっと光太郎の目を見つめた。 「…すまない。俺自身、毒殺されかけたことがあってな。 そのあたりに関しては過敏になってしまうところがある」 「あ…」 光太郎は、政宗が『鬼の義姫』と呼ばれる実の母親に毒殺されかけたという歴史のエピソードを思い出した。 政宗よりも愛情を注いでいた彼の弟を後継ぎにしたかった故の行動らしいが、 政宗はどんな思いでその事実を知ったのだろうか。 結局、政宗は母を追放し、騒ぎの元となった弟のことも殺してしまったという。 「すまなかった。俺が差し入れした魚が暑さで傷んでしまっていたらしい」 話を聞いていた家康が政宗に言った。 「ああ…あなたが天海殿の君主、家康殿か」 「このたびは申し訳ないことをした。 そして俺たちと同盟を結んでくれたことと家臣を送ってくれたことに感謝する」 「それは構わないが…なるほど、魚の差し入れか」 政宗は、その片目を細めて微笑んだ。 「俺の家臣が、見たことのない種類の魚だったと語っていてな。 海の種だとは思ったが、もしやふぐのような毒入りの魚を それと知らずに差し入れしたのではないかとも思った」 「ふぐなんて贅沢品ならば、俺が食べます」 「ははっ…確かに、それもそうだ」 政宗は、その仏頂面にそぐわぬ笑みをこぼした。 どうやら家康に対してもそれなりに好印象を持ったようで、 光太郎はほっと胸をなでおろした。 「そういえば、今日はどのようなご用件で?」 光太郎が尋ねると、政宗は思い出したかのように言った。 「ああ、米沢は残暑になると盆地故に熱がこもってかなわん。 こちらには避暑に来たついでに城に立ち寄ってみることにしたのだが、 暑いのはどこも変わらんな」 政宗の安直な理由を聞き、何か重要な話があって来たのではと思っていた 光太郎と家康は拍子抜けしてしまった。 「そ、それはわざわざどうも…」 「ああ、しかしそれとはまた別に話もあって来た」
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