血はさだめ、さだめは死

2/7
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 両親が相次いで亡くなり、ぼくは因習深い田舎を離れた。  土地と家屋敷を売り払い、自分という存在を知らぬ土地に移り住んだ。  そのときにたった一つだけ、家から持ち出したものがあった。我が家に代々伝わる家宝、青手古九谷の大皿である。  桐の箱に「古九谷 飾皿」と、墨痕鮮やかに書きしたためられていた。  江戸時代前期から家にある代物らしく、売れば一千万円になろうかという骨董品だ。  金策に困ったら売却するのが目的であり、決して家宝を守るという殊勝な考えではなかった。 「それでも、ぼくはこの青に惹かれた」  深い青の古九谷を眺めていると、不思議と心が和らいだ。  体の裡で滾る犬神の血を鎮めるようで、ぼくは暇さえあれば古九谷を愛でた。  青と赤が混ざると紫の色になるというが、ぼくはそれが限りなく鮮やかで綺麗な色になると夢見た。そうやって騒ぐ血をなだめた。 「愛香音……どうしてここに?」  ぼくを訪ねた者がいた。妹である。  忌まわしき血脈を感じて、ぼくはひどく戦慄した。  ぼくは怯えていた。体に流れる犬神の血を。その抗えぬ血が、愛の錯乱へと招いた。  ぼくは妹を愛していた。  親父が愛人に産ませた子だ。腹違いの妹を、ぼくは好きになった。妹も、ぼくを愛した。  それは二人に犬神の血が流れている、まごうことなき証であった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!