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両親が相次いで亡くなり、ぼくは因習深い田舎を離れた。
土地と家屋敷を売り払い、自分という存在を知らぬ土地に移り住んだ。
そのときにたった一つだけ、家から持ち出したものがあった。我が家に代々伝わる家宝、青手古九谷の大皿である。
桐の箱に「古九谷 飾皿」と、墨痕鮮やかに書きしたためられていた。
江戸時代前期から家にある代物らしく、売れば一千万円になろうかという骨董品だ。
金策に困ったら売却するのが目的であり、決して家宝を守るという殊勝な考えではなかった。
「それでも、ぼくはこの青に惹かれた」
深い青の古九谷を眺めていると、不思議と心が和らいだ。
体の裡で滾る犬神の血を鎮めるようで、ぼくは暇さえあれば古九谷を愛でた。
青と赤が混ざると紫の色になるというが、ぼくはそれが限りなく鮮やかで綺麗な色になると夢見た。そうやって騒ぐ血をなだめた。
「愛香音……どうしてここに?」
ぼくを訪ねた者がいた。妹である。
忌まわしき血脈を感じて、ぼくはひどく戦慄した。
ぼくは怯えていた。体に流れる犬神の血を。その抗えぬ血が、愛の錯乱へと招いた。
ぼくは妹を愛していた。
親父が愛人に産ませた子だ。腹違いの妹を、ぼくは好きになった。妹も、ぼくを愛した。
それは二人に犬神の血が流れている、まごうことなき証であった。
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