シュガー・チック

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あれは短い記憶。 ミストの中で瞬きをするような、 息がつまりそうな、それでいて瑞々しい、感覚。 思い返せば思い返すほど、 実体がつかめなくて、でも何度も頭の中で咀嚼する。 それだけ大切で、愛おしい。 焦がしたカラメルが散りばめられた綿菓子は、一口ではとても食べきれなくて、 口の中でカラメルが砕けるのを、じっと待たなくちゃいけない。 そうして残った味は甘いだけじゃなくて、 カラメルのほろ苦さが絶えずつきまとう。 優子との時間は、いつだってその焦がしカラメル付き綿菓子を頬張っている気分だった。 柔らかな午後の日差しが耳をふさぐ教室で、 私たちは同じ机に頬杖をついて、 各々違うものを見た。 時々、私は優子の方をうかがう。 耳からこぼれた髪の真っ直ぐな様をただただ見つめた。 その間、優子はこちらを気にすることはしなかった。 それがじれったくて、 「優子」 と呼ぶと、 なに?とでも言いたげにこちらを見た。 その時に浮かべた微笑は、 長い間会っていなかった恋人と久しぶりに会った時に浮かべるような、 他人行儀な、それでいて親しみのこもった笑みだった。 私はそれに苛立ちを感じるのと同時に、 胸の中で何か温かいものが転がる感覚を無視できなかった。 私が黙っていると、優子はいつもの顔に戻って、 少しからかう調子で言った。 「どうしたの?美咲。」 カラメル付き綿菓子は、 カラメルの苦さが舌にまとわりついて、 噛み砕くたびに振動が頭に伝わって、 吐き出したくなる。 でも、本当に最後に残る綿の部分の甘さが忘れられなくて、 きっとやめられなくなる。 綿の甘さを知るために、 優子を知るために、 私はいくつものカラメル付き綿菓子を口に運んだ。 優子のくれるそれが、 和三盆みたいに上品で、胸を突く甘さだと言うことを、 私は知っていたから。
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