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一気に聴力を全て奪われる。
振り向くとそこには猫目の小柄な女性が立っていた。
群青色のワンピースに白い絹のストール。透き通るような少し青みのある肌と真っ赤な唇。
口紅などの人工物で作られたものではなく、内側から上気したような赤。
ふわっと頬を撫でた秋らしい風に、さらさらと肩ほどまである黒髪が揺れていた。
『可憐』
という言葉がこれほど当てはまる女性を僕は生まれて初めて見た。
「突然呼び止めてしまって、ごめんなさい。」
僕は思わず彼女の唇に目を奪われた。
その赤い唇は、喋るたびにまるで花弁が舞うように思えた。
「え、あ、いや、はい?」
我ながら間の抜けた返事である。
でも大抵の思春期をこじらせた高校生は、見知らぬ女性からいきなり道端で話しかけられるとこんな感じになるはずだ。
なるはずじゃないの?…とりあえず僕はなる。
「ふふふ。驚かせてしまいましたよね、ふふふ。」
笑うと半月のように瞳が弧を描き、長い上下の睫毛が重なり合って、それはまた可憐なのだ。
僕は自分の頬が上気するのを感じた。
「でもね、なんだか…その…このまま見過ごすわけにはいかなかったから。ふふふ。ごめんなさい。」
「え、あ、いや、はい?」
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