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「おっ!久しぶりだね~」
私のことなんか忘れているかも と思ったのに、須藤先生は顔を見るなりにこやかに笑ってくれた。
「先生、その節はありがとうございました。私、お礼もちゃんと言わずに」
想像妊娠だと診断されて、頭が真っ白になって、ただ覚えているのは先生の穏やかな声。
「お礼?そうだっけ?」
笑いながら先生がパソコンと問診票を交互に見る。
「ほぅ、結婚したんだ…じゃ、内診するから準備してくれる?」
余計なことを一切聞かないのは、先生のポリシーなんだろうか。
内診を受けながら、目を瞑るとあの時のことが蘇ってくる。
間違いなく妊娠していると思い込んで、托卵も諦めて、これから先を思い悩んでいた。
魔女になる、強くなる、と威勢の良いことばかり考えて実際は何も…
苦くて辛い、馬鹿な私。
その私が
ーーこんな気持ちで診察を受ける日が来るなんて、夢にも思わなかった。
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