第1章

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 僕が君に願うことは、ただ幸福を感じてほしい。それだけだった。君には愛される事が必要なんだ。  それが、家族でなくても、同性だとしても。  僕を初めて見つけた時は、着古したシャツと所々破れていたり血のような汚れがついたロングコート、そして大切にしているらしいヴィンテージのスキニーデニム。確か、そんな服装だった。  6番街の裏、君が激しく咳き込み、大声で別の男が嗤っていた。僕たちは、そんなドラマのような出会い方をした。男を金で遠ざけてやると、今度は僕を睨み付けてきた。  影に居ても分かるほど、君の綺麗な白金の髪と、整った顔を、僕は一目で気に入った。だから恋人なんかではなく、ただ側に置いておく、ペットのように飼おうと思った。  「僕はレイ、向こうの土地の主だ。うちにおいでよ。傷の手当ても、服も食事も用意してあげる。危害を加えないなら、不自由ない暮らしを保証する。くるだろ?」  「わかった。」  今思えば、僕は君に嘘を付いた。しかし、それが分かるのは、君が生きていた間は分からなかっただろう。  屋敷に帰ると、使用人達は何事かとざわついた。君の格好を見れば、もしかしたら僕が何かしら危害を加えたから連れてきたと思っていたかもしれない。  「彼を屋敷で飼う。食事と風呂と服を出してやれ。先に言うが、僕は拾ってきただけだ、手は出していない。」  それを聞くと半分安堵した表情で使用人達はそれぞれ用意をし始めた。君は呆然とその様子をみていたし、僕に小声でこう尋ねた。  「今、飼うっていった?置いてくれるの?」  「勿論、君のような美人君なら、僕は話し相手にも丁度いい。使用人は足りているから、君の仕事は僕の相手といったところかな。君、名前は?」  「ない。」  「じゃあ今日出会ったから響(kyou)だ。日本語で"今日"とも言う。それに君は声が綺麗だから。」  「じゃそれで。風呂行きたいんだけど…」  「ゆっくり寛いできて、僕も食事には出よう。」  僕は君に名前をあげた。居場所もあげた。これで僕のものだと、僕も喜んだ。家族が一人増えたような気分になった。
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