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第1章
呼び止められて、振り返るとそこには、君が庭園で摘んできた薔薇の花を抱え、そして少年のような穏やかな微笑みを、僕に向けてくれている。
…そんな、気がしたんだ。
君はどうして真冬の冷たい庭園で、蒼白い体に粉雪が積もりはじめているのか。僕は、君に呼ばれたはずなんだ。…ほんの、数秒前に。
君の、香りがする。僕の中から。僕の、内側から鼻に抜けてゆく君の香りを留めておきたくて、僕は息を殺すように、息をした。口の中は、君の味がした。まだ残っている。
君の、忘れられない味がしたんだ。
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