《その③》

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相変わらずと言えば相変わらずではあるが、なんだその命令調。 カチンときた気分そのままに、「てめぇの仕事が遅ぇからだろ」と送り返す。速攻で既読が付いて戻ってきた。 『今どこだ』 俺の返信見てねぇだろと疑いたくなる横暴さである。 『電車ですー。のろまな誰かさんと違っていい子にお仕事終わった萩ちゃんはまもなく最寄駅に到着しますー』 耳に入ったアナウンスそのままに打ち返す。 今日はもうこれ以上無理だろと。柏木さんに切り捨てられたがために仕事が通常通りの時間に終わったのだとは思いたくないところである。 『改札で待っとけ』 『俺も乗った』 ……と言うことは、あと15分もしないうちに奴も最寄駅に着くのだろうけれども、だ。 「だからなんで、いちいちおまえに合わさなきゃなんねぇんだっての、俺が」 ぼそりと吐き出して、スマホをそのまま仕舞い込む。 そしてまたしても、萩ちゃん仕様のはずなのに、「俺」と言ってしまった事実にげんなりする。 奴に関わるとろくなことがない。 あいつと一緒にいると、ペースが乱されてろくなことにならない。 「萩ちゃん」の仮面をかぶれなくなる。 だから、かわいがってくれないんだろうか。俺だから。萩龍之介だから。
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