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放課後。
誰もいない教室で、章は自分の席に座り窓から空を眺めていた。
窓からは気持ちいい風が入り、グラウンドで汗を流す部活中の声が届いて来ていた。
目の前の席にはもちろんみのりの姿はない。
彼女は今、図書室で本の整理をするという図書委員の仕事をこなしているだろう。
章は机に突っ伏すように体を倒すと、みのりの席に手を伸ばした。
空を掴むようにして、背もたれの部分へ腕を載せた。
胸が苦しい。
手を伸ばした所に居ないというだけで、切なくて、苦しくなる。
こんな気持ちが自分にあるのかと、章はため息を漏らした。
廊下から足音が聴こえる。
それは徐々に近くなり、章はその主に期待して顔を向けた。
――カラララ、
「あれ?谷口、まだ帰ってなかったの?」
教室に入ってきたのはみのりではなく、クラスメートの由香だった。
章の目の色は一瞬で光をなくし、落胆のため息とともに沈んだ。
「…………」
「てっきりみのりと帰ったと思ったけど……あぁ!そっか。今日図書委員仕事あるんだよね?ウチの剣道部の坂本が図書委員の仕事で部活遅れるって言ってたっけ」
教室に入りながら由香は自分の机へと向かうと「あったあった」呟いて忘れ物を取り出した。
「……にしても、まさか谷口がみのりにあんなになるなんて……ね」
由香は近くの机へ軽く腰掛けるようにしてじっと章を見つめたが、章は由香の声を聞き流すようにまた窓の外へと視線を移した。
「みんなにそんな態度だから……私もこれが当たり前なんだって思うようにしてたのに……」
「…………」
「全く違うんだもん……」
由香の声が震え、漸く章の瞳が由香へと向いた。
「谷口……好きだよ」
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