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「貴様が藤田さんの恋人か」
目の前にすっと背を伸ばした袴姿の女、坂本は真っ直ぐに章を見た。
「坂本さん、何故それを……」
「あぁ、同じ剣道部の前田由香。アレが教えてくれた」
「あ!そっか。由香、剣道部でしたね」
「あぁ」
坂本はちらりとみのりを振り返ると、ふっと微笑んだ。
「由香にはよく藤田さんの話をするんだ。貴方はとても女らしくて可愛らしい。私が男なら、恋人になってもらいたいくらいだ」
「却下」
坂本が笑顔を見せた途端、章の低い声がした。
「みのりは俺の」
坂本の脇から腕を伸ばした章は、みのりの手を掴むと自分の方へと引っ張った。
「みのりが可愛いのは、俺の方が知ってる」
「……ふん、ならば、彼女が本を読みながらほんの少し笑うのは知っているか?私はアレが一番可愛いと思っている」
「毎朝の電車でのこと?俺もずっと気付いてた」
「貴様が彼女と一緒に登校しだしてから、すっかりご無沙汰だ」
「………えっと、2人とも?」
「私も朝同じ車両なんだ。折角の朝の楽しみを奪いおって」
「俺はもっと楽しくなった」
「くそっ、だがそれも仕方なし!藤田さんの幸せを最優先にせねばな」
坂本は手にしていた数冊の本をあっというまに棚へと仕舞うと、くるりとみのりへ体を向けた。
「藤田さん。貴方との作業時間、とても楽しかった。では、また」
一度じろりと章を見た坂本はにこりとみのりへ笑みを向けると図書室を出て行った。
後ろ姿を目で追っていた章とみのり。
章は坂本がいなくなると近くの机に軽く腰掛けるようにした。
「……はぁ。すげー焦った」
「えっと……そういえば、章くんどうしたの?」
「いや、なんでもない」
章は掴んでいたみのりの腕を引き腕の中へ閉じ込めた。
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