1・桜

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「どうですか?」 隣の席から緊張の面持ちで私を見るのは、 この春入社したばかりの新入社員の日村君。 入社三年目にして、初めて指導する後輩だ。 「うん……OK。完璧。 凄いね、このまま課長に提出できるよ」 「良かった」 肩の力を抜いて、安堵の笑顔を見せる。 「日村君は、覚えが早いよね。 教えやすくて、大助かりだよ」 彼は大したメモも取らないで、教えた事を どんどん覚えてしまう。 私なんて、未だに入社当時に書いた 手帳を、お守り代わりに持っていると いうのに。 「そんな、柏木さんの教え方が 上手いから……」 「そんなこと無いよ。私は覚えが遅くて」 「そうだよな。奈緒っちは、しょっちゅう 『しまったー』っ騒いでたよな」 頭を掻きながら否定する、日村君の後ろから、 ヒョイと顔を出した松本さんが茶々を入れて くる。
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