第31章 正しい彼氏への甘え方、甘やかし方

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岳がいてくれるだけで、すげぇ沈んだ気持ちが楽になって、部屋に巻き起こった上昇気流に乗っかる感じ。 岳のダウンを返そうと思った手は岳に握られて、そのままベッドに連れ戻される。 たった数歩でもふらつく足元は岳に全部丸々支えられていた。 「待ってろよ」 「……」 すげぇてきぱきしてる。 キッチンのとこからタオル出して、それをお湯で濡らして、ついでに小さなクローゼットから出した服も一緒に持ってきてくれた。 岳がここにいてくれるだけで、心が丈夫になる。 さっきまで、俺はこの部屋でひとりぼっちなんだ、なんて嘆いてたのさえ笑い飛ばせそう。 「着替える前に身体拭くからな。服、適当だけど」 「……うん、すげ、組み合わせ」 上下、全然合っていないんだけど。 さすがに俺でもダサいと思うんだけど。 でも、岳はそんなの気にしない。見た目のカッコよさなんてさ。 「いいんだよ。楽ちんそうなのをとりあえず着とけ。ほら、上脱いで」 「ん……」 そんなカッコよさなんて、岳の前じゃ消し飛ぶ。 熱は? 計ったか? 寒気は? ひとつひとつゆっくり優しい声で尋ねながら、身体を拭いて服を着せる手伝いをしてくれる。 「食欲あるか? ねぇなら、ゼリーだけでも胃に流し込んどけ」 「腹、減った」 さすがに朝食の後、何も食ってなくて、少しお茶を口に含んだくらいだったから、腹空いたかも。 「よし、腹減ってきたんなら大丈夫だぞ」 頭のてっぺんにポンって岳の掌が乗っかった。 大きくて優しくて温かい掌。それと「大丈夫」その言葉。 「どうした? 下も拭いて着替えさせて欲しいか?」 「! へっ、平気!」 少し悪い奴みたいに、唇の端を吊り上げて笑って、俺の頭に置いた掌でくしゃくしゃに髪を掻き混ぜる。 そして、ちょっと待ってろって言って、玄関のところにとりあえず置いた差し入れらしきビニール袋を持って、すぐ隣の台所へと向かう。 「あ、あの……岳?」 「飯作ってやるから」 「でも!」 「大丈夫だ。予防接種ならしてるし、お前が食い終わったら、食器片付けて帰るから」 マスクはしたほうがいいと思うって言ったら、そうだなって笑って、そのまま長ネギを小気味良い音をさせながら刻んでいく。
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