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岳がいてくれるだけで、すげぇ沈んだ気持ちが楽になって、部屋に巻き起こった上昇気流に乗っかる感じ。
岳のダウンを返そうと思った手は岳に握られて、そのままベッドに連れ戻される。
たった数歩でもふらつく足元は岳に全部丸々支えられていた。
「待ってろよ」
「……」
すげぇてきぱきしてる。
キッチンのとこからタオル出して、それをお湯で濡らして、ついでに小さなクローゼットから出した服も一緒に持ってきてくれた。
岳がここにいてくれるだけで、心が丈夫になる。
さっきまで、俺はこの部屋でひとりぼっちなんだ、なんて嘆いてたのさえ笑い飛ばせそう。
「着替える前に身体拭くからな。服、適当だけど」
「……うん、すげ、組み合わせ」
上下、全然合っていないんだけど。
さすがに俺でもダサいと思うんだけど。
でも、岳はそんなの気にしない。見た目のカッコよさなんてさ。
「いいんだよ。楽ちんそうなのをとりあえず着とけ。ほら、上脱いで」
「ん……」
そんなカッコよさなんて、岳の前じゃ消し飛ぶ。
熱は?
計ったか?
寒気は?
ひとつひとつゆっくり優しい声で尋ねながら、身体を拭いて服を着せる手伝いをしてくれる。
「食欲あるか? ねぇなら、ゼリーだけでも胃に流し込んどけ」
「腹、減った」
さすがに朝食の後、何も食ってなくて、少しお茶を口に含んだくらいだったから、腹空いたかも。
「よし、腹減ってきたんなら大丈夫だぞ」
頭のてっぺんにポンって岳の掌が乗っかった。
大きくて優しくて温かい掌。それと「大丈夫」その言葉。
「どうした? 下も拭いて着替えさせて欲しいか?」
「! へっ、平気!」
少し悪い奴みたいに、唇の端を吊り上げて笑って、俺の頭に置いた掌でくしゃくしゃに髪を掻き混ぜる。
そして、ちょっと待ってろって言って、玄関のところにとりあえず置いた差し入れらしきビニール袋を持って、すぐ隣の台所へと向かう。
「あ、あの……岳?」
「飯作ってやるから」
「でも!」
「大丈夫だ。予防接種ならしてるし、お前が食い終わったら、食器片付けて帰るから」
マスクはしたほうがいいと思うって言ったら、そうだなって笑って、そのまま長ネギを小気味良い音をさせながら刻んでいく。
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